映画『アイランド タイムズ』(2006・日本)| 明日、羽ばたくために。

『アイランドタイムズ』 仲里依紗 Naka_Riisa

2006年の仲里依紗と深川栄洋監督でなければ
なし得なかった奇跡の一本。

深川監督の最高傑作は、私の中では
『洋菓子店コアンドル』でしたが……
うーん、こっちに変えました。

本作品での仲里依紗はずば抜けて可愛いです。
くわえて演技も達者です。

これがデビュー作とは信じられません。

作中でリストの「愛の夢」を一曲丸ごと弾くのですが、
観る者をまったく飽きさせません。

もちろん仲里依紗のみでもっている
映画ではありません。

聴いている島の人々、東京で傷つき島に戻ってきた青年、
彼女の祖父、相手役の同級生の男の子(柳沢太介)、
そして島の自然などが効果的に差し挟まれます。

深川演出の素晴らしい点は、
言葉にたよらず表情で多くを語るところだと思います。

内地からやってきた垢抜けた美少女・奥村夕希(仲里依紗)に
ほのかな恋心を抱きつつ、彼女のために
ミニ・コンサートを企画する昌治少年。

演奏の前に観客に向かって
「間違っても笑わないで、温かい心で聴いてください」
とお願いするのですが、杞憂に終わります。

夕希は超絶に上手かったのです。

それもそのはず、彼女はすでに国際コンクールの
出場経験を持つほどの天才ピアニストなのでした。

このときの昌治少年の驚きの表情がいいです。

彼の目は夕希ではなく、
魔法を紡ぎ出す指を見ています。

その目には、まったくにごりがありません。

昌治の純粋な驚きと賞賛が、夕希を再生に向かわせる
勇気の礎になったようです。

また夕希の祖父の表情も良いです。

夕希は以前、1000人の聴衆を前に大失態を演じてしまいました。

それ以来ピアノが「気味のわるい生き物」に
見えるようになりました。

音楽を一切受け付けなくなり、とじこもった夕希。

心配した祖父は、「いちど島で暮らしてみてはどうか」
と、孫娘を連れてきたのです。

その愛娘が、島の人々のおかげで
あんなにも楽しそうにピアノを弾けるようになりました。

でも手放しでは喜べません。

彼女の復活は、ふたたび過酷な競争社会へ
向かうことを意味するからです。

自分がしたことは正しかったのだろうか。

そんな複雑な感情が、祖父の一瞬の表情に表われます。

もちろん、その解釈は人それぞれでしょう。
正解はあえて提示されません。

しかし、だからこそ観客は自分の思いを映画に込められるし、
深くコミットできた喜びと満足感を味わえるのです。

ヒロインの奥村夕希は一筋縄ではいかないキャラクターです。

次に笑うのか怒るのか、まったく分かりません。
こちらの予想を裏切りつづけてくれます。

いい人しか出てこないこの映画が、
最後まで緊張感を失わないのは、
奥村夕希というキャラクターの魅力と、
彼女の体から立ち上る、
妥協やおざなりを拒絶する厳しさのおかげでしょう。

夕希がいちどは完膚なきまでに叩きのめされ、
そこから再生していく過程にも興味深いものがあります。

再生の第一歩は、
ピアノに触ることではありませんでした。

スケッチブックに一個一個鍵盤を描き、
黒鍵はマジックでていねいに塗りつぶしていく。

いわば、何もないところからピアノを作り出す作業から
スタートするのです。

そこからでなければいけなかったのでしょう。

この“手書き”というモチーフは、
深川作品の特徴のひとつと言えます。

『60歳のラブレター』、『神様のカルテ』でも
絵を描くシーン、文字を手書きするシーンが
重要な役割を持たされていました。

そう考えると、夕希の復活コンサートのポスターが
手描きなのもうなずけます。

また、夕希を連れ戻しに東京からやってきたピアノ教師・
寺田農がこのポスターをいかにも苦々しげに眺めるところは、
夕希の将来にたちはだかる試練を暗示しているようで、
なかなか刺激的です。

しかし、この島で成長をとげた夕希なら
きっとやってくれるでしょう。

そんな明るい予感もしっかりと
観客に持たせてくれたところでこの映画は終わります。

深川栄洋と仲里依紗の邂逅は、日本映画界にとって
まことに喜ばしい出来事だったと思います。

願わくば、ふたたび奇跡が起こらんことを!
 
あらすじ (ネタバレしています!)

人口200人に満たない青ヶ島に住む昌治(柳沢太介)は
島でただ一人の中学三年生。

無料新聞ブルー・アイランド・タイムズの二代目編集長でもある。

カンパの箱には、千円札が一枚入ったポチ袋を
毎月入れてくれる人がいるが、誰かは分からない。

島には高校がないので、昌治はその準備のため
東京行きの船に乗る。

とはいっても青ヶ島も東京都なのだが。

今回の彼の楽しみの一つは、
二歳上の親友・樋口亮二(細田よしひこ)に会うこと。

亮ちゃんはアイランドタイムズの初代編集長である。
しかし約束したはずの亮ちゃんは不在だった。

昌治がアパートの前で座り込んで待っていると、
ようやく亮ちゃんが帰って来た。

だが、何となく迷惑そう。

とりあえず中に入れてもらうが、
エロ本が置いてあったりして、
秀才の呼び声高かった亮ちゃんの変わりように
昌治はショックを受ける。

「世界に意味なんてあると思うか?」
亮ちゃんの突然の問いかけに昌治は絶句する。

実はこのときすでに、亮ちゃんは高校をやめていた。

ほどなく彼はアパートを引き払い、島に舞い戻る。

帰りの船の中で、奥村老人(守田比呂也)といっしょになった。
奥村はアイランドタイムズが楽しみだと言ってくれる。

彼のそばに見慣れぬ少女が寝ていた。

少女は奥村老人の孫娘で、夕希(仲里依紗)と言った。
昌治と同じ中学三年生だという。

翌日から机を並べて授業を受ける二人。
英語がぺらぺらの夕希に、唖然とする昌治。

昌治は夕希のために島の紹介を兼ねたツアーを決行する。
要するにデートだ。

夕希は承諾する。

びしっと決めた髪で、夕希を自転車の後ろに乗せ、
島を案内する幸せいっぱいの昌治。

山の火口で、夕希は不思議がりながら手をたたき続ける。

響きが面白いらしい。

「コンサートホールみたいじゃない?」
そう言いながら夕希は笑顔を見せる。

その後、昌治の根掘り葉掘りのインタビューが始まる。

それによると、ここに来た理由は
「東京がうるさくて嫌になったから」
「特技はピアノ、恋人はいない」
と言うことだった。

昌治は村役場に勤める坂口(村木藤志郎)に
女の口説き方を教わりに行く。

坂口の教えは
「女は気味のわるい場所が好きだ」
「そこでキスをしろ」
「キスする前にちゃんと了解を取れ」
というものだった。

昌治はいわれた通り実行するが
「やだ」の一言の元にあっけなく玉砕。

しかし翌日、登校時に「昨日は楽しかったね」と言われ、
いきなり元気を取り戻すのだった。

村でただひとり、ピアノの弾ける豊島先生(水木薫)が
腕をケガしてしまった。

島の合唱団のコンサートが中止の危機を迎える。

豊島先生は、夕希にいちど入部を拒絶されていたので、
昌治がその任を請け負うことになる。

アイランドタイムズのヘッドラインは、
「転校生現わる。中学唯一の女子」。

特技にピアノなんて書くからいけないんだと
夕希にしこたま怒られ、すごすごと引き下がる昌治。

だが、合唱団の一員、小学生の美咲(矢口蒼依)と
沙織(田中亜希)がしょんぼりしているのを見るのは、
さすがの夕希も心苦しい。

翌日の合唱の練習中に夕希は姿を現わす。

喜んで迎える一同と昌治。

夕希が弾き始めると、あまりの次元の高さに
歌うことを忘れてしまう一同だった。

口では嫌だと言いつつも、
楽しそうにピアノを奏でる夕希を見た昌治は、
合唱のあとミニ・コンサートをやらないかと提案する。

またもや怒り出す夕希だったが、
帰宅後、画用紙をつなぎ合わせて紙の鍵盤を作り、
その上で指を踊らせ始める。

夕希のもとにはだいぶ前に、分厚い大きな封筒が届いていた。
中身は見当がついている。
ようやく開封する決心を固める夕希。

中には楽譜がびっしり詰まっていた。

東京にいた頃のピアノの先生からのもので、
彼女はそれを開けることができなかったのだ。

祖父が目を細めながら、アイランドタイムズを読んでいる。
一面は愛孫の夕希だ。

その隣で、楽しそうにピアノを弾くまねをする夕希である。

彼女は学校の音楽室でも練習を始めるようになった。

コンサートは大成功を収める。

だがその後、夕希が国際的に有名な
コンクールピアニストだったことが知れ渡る。

ならばここはひとつ合唱団の活動を休止して、
音楽室を夕希に明け渡し、存分にピアノの練習を
してもらおうではないかと言うことになった。

しかし合唱団のみんなの喜ぶ顔があったからこそ
ピアノに向き合う気力を出せた夕希に、
いきなり孤独で過酷な練習を強いるのはいかにも性急すぎた。

大きなコンサートでの大失敗が元で、
つい最近まで全くピアノに触れなかったこと、
島の人たちのおかげで立ち直れそうだったこと、
そのとたん周りに誰もいなくなってしまったことなどを、
泣きながら昌治に語る夕希。

そのころ、東京で夕希を教えていた先生(寺田農)が、
彼女を連れ戻すために島に来ていた。

それを聞いた昌治は、先生に会いに行く。

「ここにいたら彼女はすぐにダメになる」
という言葉を真に受けた昌治は、夕希の元へ戻り、
ここから早く出て行くよう厳しく当たる。

昌治なりの優しさではあったが、
夕希からしたら、島を出て行こうとしない昌治に
島を出て行けと言われるのは納得がいかない。

二人はケンカ別れをする。

怒り心頭に発した夕希は、その足で
昌治の先輩・亮二が働いている工場へ乗り込み、
一方的に責めたてる。

「昌治が東京行きを怖がるのは亮二のせいだ」
「彼が島から出ないことを選んだら、あなたを呪ってやる」

翌日の放課後、昌治がひとりで歩いていると
頭上からピアニカの音が聞こえてきた。
音の主は夕希だった。

海の見えるベンチに座る二人。
夕希が語り出す。

「もし私たちの夢がかなって、ピアニストや新聞記者に
なれたとしても、きっと傷つくことが待っていると思う。
昌治君はここにいて、私に出て行けって言うのはずるいと思う。
昌治君にももっとつらくて悲しい思いをしてほしい」

「私、戻るのすごく怖い。だから一緒に東京に行ってほしい。昌治君がいてくれたらうれしい。
時々、夕希よくやってるよって言ってほしい」

高校進学せず島に残ることを希望していた昌治も、
ここにきて心を決めた。

その後、二人とも希望の高校に無事合格。
東京に出ることが決まった。

卒業式。
夕希は合唱団のために曲を作った。

作詞は昌治。親友の亮二を思って書いた詞だ。

合唱団が歌うその曲を、亮二は体育館の外で聴いている。

そして旅立ちの日。

島の人々が見送る中、二人を乗せた船が離れていく。

満面の笑顔で大きく手を振る夕希とは対照的に、
昌治は泣きっぱなしだ。

ハンカチを差し出す夕希を制して、
自分のポケットからハンカチを取り出す昌治。

ポケットからこぼれ落ちたものは、
毎月カンパの箱に入っていた見慣れたポチ袋だった。

中には母からのお守りが入っていた。

_________________

ISLAND TIMES

監督
深川栄洋

脚本
EN、深川栄洋

キャスト
柳沢太介 (廣田昌治)
仲里依紗 (奥村夕希)
細田よしひこ (樋口亮二)
水木薫 (豊島)
村木藤志郎 (坂口利一)
小林奨 (昭二)
田中亜季(沙織)
矢口蒼依 (美咲)
児島美ゆき (廣田伸江)
寺田農 (大楽)
守田比呂也 (雄蔵)

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