「まだやれる まだじゅうぶんやれる」山本鈴美香・著「エースをねらえ!」03巻

vol.03 めざすは世界一!の巻

関東大会ダブルス1回戦。
何とか勝利をものにした竜崎麗香岡ひろみペア。

ひろみは試合が終了したとたん、
忘れていた傷の痛みが意識に上ってきて、
その場にへたり込んでしまいます。

そんなひろみを、人目もかまわず抱き上げる宗方仁コーチ。

これを見てしまって心穏やかでない緑川蘭子
さらにひろみのダブルスパートナー
お蝶夫人”こと竜崎麗香までも。

あなたの一面はかわいい
けれど一面はにくい
ここがあたくしのすくわれないところよ

さすがはお蝶夫人
「ムキー、くやしーっ!」とはならず、
自分がよく見えていらっしゃるところがただ者ではない感じ。

その夜、宗方コーチの自宅を訪ねる緑川蘭子

何とかして! (ケガで)テニスができなくて気が狂いそう

と宗方に抱きつくところを、
お蝶夫人が放った忍びの者が見ていました。

…あいや、お蝶夫人が放ったかどうかは定かではないのですが、
電話でこの者の報告を受けているので…。

「エースをねらえ!」後期のお蝶夫人なら
電話をしてきた忍びの者に
「恥を知りなさい!」くらい言いそうです。

でも初期のお蝶夫人はちょっと黒いのです。

ここで回想が入ります。

背が高いことをコンプレックスに感じていた蘭子を
長身を活かせるテニスの世界に導いたのは宗方仁でした。

実は二人は異母兄妹。

当時大学生だった宗方はそのことを知っていましたが、
妹の蘭子は知りませんでした。

そういう事情もあって、宗方は蘭子に声をかけたのです。

だれもが美点欠点とりまぜて
生まれてきてるんだ
あまったれるんじゃない!

 

じぶんに勝つということが
どういうことかわかるか

長所をのばし短所を克服して
長所にさえかえてしまうことだ

 

そうしてはじめて
周囲にも勝てるんだ

宗方は
「背が高いことはテニスプレイヤーにとって長所なのだ」
と蘭子を諭しています。

そうかといって
「背が低い選手はダメだ」
と言っているわけではありません。

もし蘭子が身長が低くて悩んでいたとしたら、
「背が低いことは長所なのだ」
と言っていたことでしょう。

背が高かろうが低かろうが、
気持ちの持ち方ひとつで長所にも短所にもなりうる。

エースをねらえ!」は
世界を一瞬にして反転させるアファメーションの宝庫です。

このマンガが、ある種“バイブル”のように
信奉されている理由の一つはそこにあると思います。

さて、関東大会2回戦も勝ち進んだ竜崎・岡ペア。

準決勝で大苦戦しますが、どうにか勝ち残りました。

相手校のコーチは宗方と旧友でした。

なぜ宗方は岡ひろみに特別目をかけたのか。
ついに本人の口から語られます。

しかしあまり説得力が感じられません。

まとまったひとつの試合ができない
それがかえって目をひいた
ぬけたところもあるが
未完成だからまとまりがない
あれだけの大きさを
あんな子どもがどうひとつの
プレイの中に生かすのか

…うーん、だったら岡ひろみ以外でも
よかったのでは? と思ってしまいます。

後半になると「才能を感じたから」という
至極もっともな理由を、宗方は語るのですけれど。

では、なぜ作者の山本鈴美香先生は
最初からそう説明しなかったのでしょうか。

私の邪推ですが、理由はこういうことではないかと思います。

宗方仁は「才能を感じたから」岡ひろみを選んだのではない。

「彼女だと思った」から選んだ。
ただそれだけなのではないでしょうか。

これはもう相性というか、取り合わせの妙みたいなものです。

そう思ってしまったのだから、もうしょうがないのです。

他の部員は「ムキーッ」となるでしょう。
でも、だからこそ現実的だし、説得力があるのです。

“えこひいき”だから“理不尽”だから
読者も読んでいて燃えるのです。

お互いが「この人しかない」とまず思えるか。
この点でお蝶夫人は脱落してしまいます。

大人すぎるし、プライドが高すぎるし、
テニスに関する知識もありすぎるし、

──それはもちろんとても良いことなのですが、
この場合はかえって邪魔になってしまいます。

そもそも宗方が求めている関係は
「師匠と弟子」なのであって
「顧問と生徒」ではありません。

ここで大半の部員は資格を失います。

だいいち、そんな関係を望んで
テニス部に入ってきたわけではないでしょう。

宗方仁岡ひろみは、表向きはあくまでも「顧問と生徒」。

二人の関係を、高校教師である旧友に説明しようとしたら、
上記のようなモヤモヤしたものになってしまうのも
しょうがないのかも知れません。

さて、関東大会も決勝を残すのみとなりました。
いつもお蝶夫人におんぶにだっこじゃ情けないと、
早朝練習を開始するひろみです。

そのけなげな姿を見守っている男の子がいました。

男子テニス部副キャプテン兼生徒会長の藤堂貴之です。

あの藤堂でさえも陰では孤独に耐えながら切磋琢磨していた、
という事実に勇気づけられるひろみ。

ひろみの練習ぶりにいっそう気迫がこもってきました。

それを見ていたお蝶夫人もフンドシ…もとい、
パン…もとい、アンダースコートを穿きなおします。
 

いまのあなたの技術など
あたくしはすこしもおそれはしない

問題はその気迫
その情熱

きょうわずかでも
あなたの情熱がまさっていれば

あすはそのぶんおいつかれる
そしてそのわずかさに気づかずにいるうちに───

いつか完全においつかれ
おいぬかれる日がやってくる

すすまなければ
その日をさけるために!

けれど ああ ふたりして
なんとはてしない旅にでたことだろう…

お蝶夫人お蝶夫人であり続けるための、
悲壮で美しい決意。

そして、このモノローグにも
エースをねらえ!」独特の哲学がうかがえます。

それは
『情熱の量が事の勝敗を決する』
ということです。

「あーつーいー あーつーいー 情熱だーけはー♪」
アニメも素晴らしいです。

そして迎えた決勝戦。
炎天下の中、果てしなく続く過酷なラリー。

突然の強風にひろみの集中力が一瞬途切れてしまいます。

ひろみ!
プレイ中よ!
ボールだけ見なさい
ストロークの音だけききなさい!!

これには驚かされました。

一流の選手ともなればストローク音にまで
注意を払っているものなのですね。

耳当て付きヘルメット

耳当て無しヘルメット

(余談ですが、日本・アメリカを通じてただひとり3度の三冠王を獲得した落合博満さんは『音』(と視界)が妨げられるのを嫌い、耳当て付きのヘルメットを最後まで使用せずに選手生活を全うしました)

エースをねらえ!」あらすじを進めましょう。

お蝶夫人の凄まじい気迫が相手を圧倒し、
ついにダブルス優勝!

テニスの名門・西高は、お蝶夫人藤堂貴之尾崎勇
実力を遺憾なく発揮し、終わってみれば
堂々の完全優勝を果たしたのでした。

翌日の学校は、ウワサの女の子ひろみの話題で持ちきり。

しかしひろみは全くオゴりません。
自分の貢献度など微々たるもの、と謙虚さを忘れません。

ここで新キャラ投入。
お蝶夫人二世”こと英玲(はなぶさ・れい)の登場です。

美少女指数でいうならこの漫画ナンバーワンかも。

出だしは華々しかったのですが、
この後ザコキャラ化していくのがちょっと残念。

考えてみれば、1巻で登場したキャラだけで
エースをねらえ!」は十分でした。

みなさんキャラ濃いですからね。
“1巻で大勢が決する”というのはマンガの法則かも。

ここで「全日本ジュニアチーム結成計画」が発表されます。

全国から有望な若手を集め、
世界に通用するプレイヤーを育成するプロジェクトが
ついに動き出したのです。

西校が位置している県──
(埼玉ということでいいのですか? アニメ版では神奈川?)
から選ばれたのは……

竜崎麗香
緑川蘭子
岡ひろみ
藤堂貴之
尾崎勇

の5人。

この後、メンバーは段階をふんでしぼられていきます。

体育祭などの余興もはさみつつ、
英玲のひろみへの告白もありつつ……。
 

同性にあんな目で見られたのはじめてだし

 

フフ…でも見たことはあるでしょ
竜崎さんを見るあなたの目
あの子と同じよ

えっ!?

好くほうと好かれるほうと…
どっちがつらいのかしらね
きらいでないなら
あまりつめたくしないでやれば?
思うほうは真剣なのよ

緑川蘭子のセリフ、いいですね。

“他者をおもんぱかる心”というのも
「エースをねらえ!」に通底している
テーマのひとつだと思います。

主要人物全員に備わっているので、
読んでいてすがすがしさを感じます。

常に相手の気持ちや状況を考えて行動できる人たち。

みなさん、相手のよりよき成長のために骨身を惜しまず、
ときには自分を犠牲にしてまで尽くすことを厭いません。

エースをねらえ!」がいつまでも
愛され続けるゆえんですね。
(第4巻へ続きます)
 

「エースをねらえ!」01巻「試合なんてものはやってみなけりゃわからないんだぞ」

「エースをねらえ!」02巻「つらくなんかない!! つらくなんかない!!」

「エースをねらえ!」03巻「まだやれる まだじゅうぶんやれる」

「エースをねらえ!」04巻「うまいのと強いのとちがうでしょ」

「エースをねらえ!」05巻「きなさい 死にものぐるいで」

「エースをねらえ!」06巻「いずれ なにもかも思いでになる」

「エースをねらえ!」07巻「やりぬいてみせる! 命をかけても!!」

「エースをねらえ!」08巻「彼女におとる青春はすごすまい!」

「エースをねらえ!」09巻「もう何からも逃げない!」

「エースをねらえ!」10巻「この一球!」

「エースをねらえ!」11巻「絶対負けられない!!」

「エースをねらえ!」12巻「ひろみ 打ちなさい!!」

「エースをねらえ!」13巻「もう あともどりはできない」

「エースをねらえ!」14巻「やればできるんだ!」

「エースをねらえ!」15巻「わたし…がんばります!」

「エースをねらえ!」16巻「夢は死なないのだね 宗方君…!」

「エースをねらえ!」17巻「日本中が君の勝利を祈ってる がんばれ!!」

「エースをねらえ!」18巻(終)「……がんばってきます!」

マンガ「エースをねらえ!」………恐ろしい子!