創作とは闘いである「アニメーション制作技法『4701白鯨』を創る」出崎統・杉野昭夫

ブルーレイ版『エースをねらえ!』のカバーイラストの一部です。
Aim For The Ace! blu-ray-cover Author: Sumika YAMAMOTO

「アニメーション制作技法『4701白鯨』を創る」出崎統・杉野昭夫

出崎統監督といえば、「鉄腕アトム」に始まり
「どろろ」「ムーミン」「あしたのジョー」
「ベルサイユのばら」「エースをねらえ!」…

この人が手掛けたアニメに触れずに
大人になった人が果たして日本にいるのだろうか
っていうくらい、スゴイ方であるのは
もはや説明するまでもありません。

私が出崎統という名前を意識し出したのは、
実はつい最近で、「宝島」というTVアニメを観て、
圧倒されまくったのがきっかけなのでした。

その中に出てくるジョン・シルバーという男が、
出崎監督そのものだというウワサを聞き、
「あんな人間現実にいるわけない!」
と思いつつも、そのシルバーを演出しているのが
当の出崎監督なのだから、もしかしたら
あり得るかも? と思い、著作を調べていたら
この本にたどり着いたというわけです。

本書は「白鯨伝説」という作品の発案から
完成までを例にとり、いったいどのように
アニメは作られていくのかということと、
制作に携わる人々の役割とその思いまでもが
合わせて綴られています。

いやあ、こんなにも緻密で手間のかかる
作業だとは!

たいへん乱暴な言い方で申し訳ないのですが、
実写の場合、カメラさえ回してさえいれば
少なくとも尺は稼げるわけです。
(たま~にそんな映画も見かけます)

でもアニメの場合は描いて描いて描きまくって、
とにかく数千枚描きためないと何も始まらないわけで。

そのうえ、よりよい作品を作るためには
空気の動き、光の粒、匂い、温度などを想像し、
感じながら描かないと絵が活き活きと動き出して
くれないのだ、ということがよく分かりました。

大まかに分けると、制作過程は

脚本 → 絵コンテ → 原画 → 動画 → 撮影

こんな感じになっているようです。

それぞれの受け継ぎのときに発生する、
意見のすり合わせ作業は

「闘い」である

と出崎監督は言い切っています。

それほどの気力・迫力・情熱が長年の過酷な
シリーズ監督生活を支えているのでしょう。

出崎監督の、まさに命を賭けた仕事ぶりから
生まれた作品と、共に日々戦い続けている
スタッフの方々にこの場を借りて
敬意を表したいと思います。

(以下、引用です)

さて、「絵コンテ」は「シナリオ」の

挑戦を受けて作業に入っていく。
(中略)
この時、シナリオは凶暴な暴れ馬となり、
絵コンテになんかされてたまるかと
自己主張をする。その主張が強ければ強い程、
良い絵コンテになる、と僕は信じている。

「おつかれさまでした」と、自分の絵コンテの

力の及ばぬことを棚にあげて、言いたい放題。
ギッシリと要求を並べ立てて、普通、
作画打ち合わせは終わりを迎えるのである。
スタッフ達の目は大抵、あらぬほうを見詰め、
僕とは視線を合わせようとしない。

少なくとも、原画家はお金を払ってでも、一度、

撮影現場に行って、その1か月はアシスタントを
することをおすすめする。
その時から「タイムシート」の本当の意味が
少しずつ分かり始めるだろうから。

実は、その高価なコンピューターやモーターも

手に入れることのできないある撮影スタッフが、
その不可能といわれた撮影を
やってのけるようになったのだ。
(中略)
感謝の意を込めて、
僕は彼等に聞いてみたことがある。
「なぜ、そんなことが出来たんですか?」
その人は気負いもなく答えてくれた。
「コンピューターに出来ることは、
僕達にだって出来ますよ!」
アニメーションには、まだまだすごい未来が
あるかもしれないと、僕は思った。

いつも僕の作品の撮影監督をしてくれるT氏は、

よくこんなことを言う。
「何を使って、どう撮れとは言わないでください。
ただ、このカットになぜそのイメージが
必要なのかを言ってください。
そのイメージさえ納得出来れば、
何をどう使うかは私の仕事です」
と、僕はありったけの言葉を使って
イメージを伝える。ドラマを語る。
登場人物の生い立ちにまで思いをはせて
彼と語り合うのだ。そして僕は知ったのだ。
彼がいかにドラマを追い、
作品を思って「撮影」しているのかを……。

僕はいつも試写室の一番前の列の

はじっこに座ることにしている。
ここに座っていれば、映写が終わった時、
スタッフ達の表情を見なくてすむし、
みんなが試写室を出て行ったあとで、
自分の表情を見せずに席を立つことが
出来るからだ。
(中略)
ああもすれば良かった、なぜこうしなかったか…
と、必ず自分の力のなさを痛感するからである。
その顔をどうしても、
スタッフに見せたくないのだ。
(中略)
そして、試写室の外でみんなが何を話しているかを、
聞き耳を立てて、僕はこわごわ席を立つ。
とにかく、楽しくスタッフ達と
完成したことの喜びを、ともに味あわなくては
いけないのだ。今夜だけは……。

 

出﨑統監督の「﨑」の表記は、ウィキペディアによると「大」ではなく「立」のほうの「﨑」が正しいようです。
今回は、書籍にあわせて、「大」のほうの「崎」を使った「出崎」表記にしました。