美しい思い出だけを。「メモリ」感想「Q.E.D. iff -証明終了-」加藤元浩・著

イラストは加藤元浩・著「Q.E.D. iff -証明終了-」少年マガジン2019年4号掲載「メモリ」より、扉絵の一部です。タイトル・ロゴと水原可奈ちゃんのバスト・アップです。
Kana MIZUHARA in [Q.E.D. iff] (shonen-magazine-R vol.04) created by Motohiro KATOU

少年マガジンR 2019年4号(6月20日発売)
紙書籍版にのみ収録されている
「Q.E.D. iff -証明終了-」シリーズ最新話
「メモリ」のレビューをさせていただきます。

(若干のネタバレがあります。ご了承くださった方のみお読みください)

今回のエピソードは、
澄馬想(とうま そう)くんが
マサチューセッツ工科大学
(=MIT)にいた頃のお話です。

大学生とは言っても飛び級なので
彼が13~15歳くらいの時の
出来事ということになるでしょう。

ケンカっ早くて、酒癖の悪い
黄成(ファン ソン)という学生が
共同研究を持ちかけてきました。

研究の内容は「量子情報学」。

この分野を制した者が
次世代のセキュリティ競争を制する
と言われているほど、注目されている分野です。

最初はうまくいっていた二人ですが、
あるとき黄成が、澄馬くんのパソコンから
情報を盗み出そうとします。

それがバレて、黄成は
澄馬くんから絶縁され、
以来二人は疎遠となりました。

5年後──。
黄成が単独で研究を完成させた
というウワサが流れます。

その直後、彼はボート事故で死亡しました。

それからさらに半年後、
澄馬くんの元に、
死んだはずの黄成から手紙が届きました。
何か渡したいものがある(あった)ようす。

(澄馬くんは15歳でMITを卒業したあと、
日本へ戻り、普通高校に転入しました)

黄成が指定した場所は、
彼が命を落としたアラスカ州の
とある川沿いの小屋でした。

管理人の話によると、すでに怪しげな男たちにより、
何度も家捜しがされたとのことです。

黄成はその小屋に、澄馬くんにしか解けない
“暗号”をひそませていました。

あっという間に解読した澄馬くん。
黄成が隠しておいたUSBメモリを手に入れます。

黄成の研究はロシア、中国、アメリカが狙っていたものでした。
その日から澄馬くんは命を狙われるはめになります。

日本からは内閣調査室まで出張ってきて
素直にUSBを渡すようにと説得します。

しかし澄馬くんはガンコに突っぱねます。

 

でも彼は個人の趣味で
研究していたんでしょう?
 
だったらその受取人は
遺族になるはずです

 

(このあと澄馬くんは
日本をふくむ4か国を相手に
壮大なトリックを仕掛けます。が、
ネタバレになるので伏せておきます)

澄馬くんと同級生の水原可奈ちゃんは
各国の追っ手を撃退し、いったん
銀行の貸金庫にUSBを預けます。
(ナンバーが素数の1327とはいかにも「QED」!)

内調としては澄馬くんの
言うとおりにするしかありません。

黄成のUSBは彼の遺族が受け取るべき、
と考えている澄馬くん。

黄成の妹、黄海心(ファン ハイシン)
が香港に住んでいることを突きとめ、
来日を手配します。

その海心ですが、彼女には
莫大な借金がありました。

米、露、中の3か国は借金の肩代わりを条件に
USBメモリを要求します。

これに金貸しまで絡み、話はもつれ、
USBは力尽くの争奪戦となります。

騒動が終わってみれば、それぞれの国が
偽物のメモリをつかまされていました。

澄馬くんの策略にはまった
3か国は、三すくみ状態におかれ、
とうぶんのあいだ、世界には平和が
訪れることと相成ったのでした。

本物のUSBはどうなったのかというと……

ひとり中国に渡った澄馬くんが
海心に直接手渡しました。

海心は、受け取ったUSBメモリを
躊躇することなく焼き捨てます。

かくして黄成の研究成果は、
澄馬くんの頭の中にのみ
存在することになりました。

澄馬くんは海心に約束します。

上手くまとまりそうなら
お兄さんの名前で
論文として発表します

そしてこうも言い添えるのでした。

スイス銀行に振り込まれたお金は
お兄さんからの贈り物として受け取ってほしい

。。。エピソードはここで終わりです。

ですが…ひとつ気になるコマがありました。

海心がUSBメモリを火にくべるシーンです。

ドラム缶の中には、ノートパソコンと
かなりの金額の札束が
炎に包まれているのが見えます。

このお金はいったい何なのでしょうか。

じつは、兄の黄成は
量子暗号鍵を研究する一方で、
ロシアのスパイとして
MITから機密情報を盗んでいました。

ということは、彼は
スパイとしての報酬を
妹さんに送っていたとは考えられないでしょうか。

黄成は酒を飲んで、
しょっちゅうケンカをしては
警察の厄介になっていました。

が、じつはケンカの相手は
ロシア大使館の関係者でした。

黄成は酔ってケンカをするふりをして、
情報を受け渡していたのです。

黄成が澄馬くんと共同研究をしていたころ、
子ども時代の思い出を語るシーンがあります。

仕事のつらさに耐えかねた村の大人たちは
ウォッカを浴びるように飲み、泥酔し、
朝方には冷たくなっている……。

そんな姿を何度も見せられた黄成少年は、
必死に猛勉強して、低賃金の
肉体労働しか仕事のない村から
抜け出そうとしたと言います。

それを考えると、
「酒好きでケンカっ早い黄成」
というのも世を忍ぶ仮の姿で、
本当の彼は、少し気が弱くて妹思いの兄
だったのかも知れません。

スパイ活動に手を染めたのも、
妹さんの幸せを願った末のことだったのかも。

ですが妹さんは、兄が送ってくる金額の多さに
何か危険なものを感じたのか、手をつけませんでした。

そのうえ、まだ若い兄が

オレが死んだら半年後に、澄馬に手紙を~

などと、死を予感させるようなことを頼んでいたことも
妹さんを不安にさせた原因のひとつでしょう。

こうなってくると、ボート事故というのも、
もしかして殺人だったのでは? と思えてきます。

スパイで得た不浄なお金など
欲しくありませんが、
量子暗号鍵を研究した成果としての
まっとうなお金なら、喜んで受け取れます。

澄馬くんが言っていた
「スイス銀行に振り込まれたお金」
というのは、先の騒動のさいに
中国がUSB代金として先走って
入金したものだと思われます。

ですからおそらく澄馬くんは
黄成の研究を検証したのち、
黄成の名義で、中国に研究成果を
渡す心づもりなのでしょう。

黄成のたったひとりの妹への思いを
見抜いていたからこそ、
澄馬くんは過去の裏切りを赦し、
協力を惜しまなかったのかも知れません。

生前、黄成が残した負の「メモリ」はすべて焼き捨て、
彼が残した美しい「メモリー」だけを見つめていく道を
澄馬くんと妹さんは、選んだのでした。

以上のことは、
マンガの中にはまったく書かれていない、
一ファンの他愛ない妄想にすぎません。

こんなことを偉そうに書き連ねて
せっかくの加藤元浩先生の
「秘すれば花」の美学を
台無しにしてしまったかも知れないことを恐れます。

何とぞご容赦くださるよう願うばかりです。

本エピソードの余録として、

sin(α+β)=
cosα・sinβ+sinα・cosβ

cos(α+β)=
cosα・cosβ-sinα・sinβ

…という、
目にしただけでギブアップしたくなる
『三角関数の加法定理』
が、めちゃめちゃ分かりやすく
説明されています。

高校時代にこのマンガがあれば
数学が好きになっていたかも。

それから澄馬くんたちが
映画で盛り上がるシーンがうらやましかったです。

『インターステラー』観なきゃ!!
 
※ 2019.10.21 追記:
「メモリ」は「Q.E.D. iff -証明終了-」第14巻に収録されています。

画像は少年マガジンR2,019年6号(November)に掲載された、加藤元浩・著「Q.E.D. iff -証明終了-」第14巻の広告の一部です。

 
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