映画『有りがたうさん』(1936・日本) 静かに息づく大傑作。

写真は清水宏監督作品『有りがたうさん』のアメリカ版DVDジャケットです。
Mr. Thank You Directed by Hiroshi SHIMIZU

11月7日は名優上原謙の誕生日です。
(うえはら けん、1909年11月7日 – 1991年11月23日)
今年が生誕110年目にあたります。

ということで、代表作
『有りがたうさん』を観ていきましょう。

原作は川端康成、
監督は清水宏。

まずは共演の桑野通子に
“日本映画史上あなたは最高にいい女で賞”
を進呈いたします。
何の権威もありませんが(笑)。

バスの中でドラマが繰り広げられる映画といえば
『三十六人の乗客』(監督; 杉江敏男)というのもありました。

あちらはサスペンス、
こちらは牧歌的な雰囲気のロード・ムービー。

でも中身はずしりと重たいです。

バックに流れる軽快な音楽が
これほど哀しく胸に染みいる映画もないでしょう。

『サウンド・オブ・ミュージック』の
「マイ・フェイバリット・シングス」が
マイナー調なのに楽しく聴こえるのとは好対照です。

「ありがとうさん」というのは、
バス運転手(上原謙)のニックネーム。

道行く人とすれ違うたび

ありがと~

と声をかける、街道の人気者。

水商売をしているらしい桑野通子は、
ありがとうさんのバスに乗るために
わざわざ一本やり過ごします。

乗客の中に、これから
苦界に身を沈めようという娘とその母親がいました。

おそらく桑野はこの娘に昔の自分を見たのでしょう、
何かとこの母娘を気づかう素振りを見せます。

しかし乗客全体はなんとなく桑野を見下しているようす。

そして、あろうことか娘の母親まで
それに乗じて桑野に冷たく当たるのです。

恩を仇で返しているのを、
本人はまったく気づいていないところが、
見ているこちらの胸を締めつけます。

桑野の隣に座っているのはヒゲ男。
二人は道中ずっとやり合います。

娘をエロい目でなめまわすヒゲ男。
それを阻止しようとする桑野。

もしもこの当時プリキュアがあったら、
実写版の主役はぜひこの人でお願いしたいものです。

このヒゲ男、桑野だけでなく
ありがとうさんにも絡んできます。

いちいち頼まれ事など聞くな
はやくバスを出せ。汽車に遅れる
車内は禁酒禁煙!

こうしてみるとヒゲ男の言い分も
まんざら言いがかりでもないなあ。

それだけにヒゲ男に簡単に屈服しない
桑野の姐さんとありがとうさんに、
人としての強さを感じます。

美しい生き方を貫かれています。
それに対してヒゲ男は正しいかも知れないが、
いかにも寂しい人生という感じ。

まあヒゲ男はどうでもいいです。

問題は桑野の姐さんです。
あのあと幸せになれたのでしょうか……。

あらすじ(ネタバレあります!)

村から峠を二つ越えて
駅へと向かう長距離バスが出発した。

運転手(上原謙)は、道をゆずる村人たちに
「ありがとう」と声をかけていく、
人呼んで「ありがとうさん」。

言付けやちょっとした買い物も、
頼まれればこころよく引き受ける心優しき青年だ。

折しも日本は空前の不況で失業者は増えるばかり。

バスの乗客の中にも、新しい働き場所を
求めるらしい女給(桑野通子)や、
身売りする娘(築地まゆみ)と
その母(二葉かほる)らが乗っている。

ありがとうさんはもうじき
念願の自家用車を手に入れ、独立する。

村人たちはそのことを知っている。

娘が無邪気に言う。

今度じぶんが村に帰るときはその車ね

ありがとうさんは言葉につまる。

村から峠を越えて町に行った者は何人もいるが、
帰って来られた者はほとんどいないのだ。

途中休憩。全員がバスを降りる。

娘はありがとうさんと文通の約束をする。

それを遠くから眺めていた女給は、
娘の様子にほのかな恋心を見てとる。

そこへ朝鮮人労働者の一団の中から
娘がひとり抜けだし、ありがとうさんを追って来る。

当時、彼らは過酷な労働を強いられていた。

朝鮮人の娘はありがとうさんに頼み事をする。

父親がこの地で亡くなったので、
時々お墓に花と水をあげてほしい。
自分はこのあと信州へやられるから───。

ありがとうさんは、
駅まで乗せていってあげようとするが、娘は辞退。

後からやってくる仲間を見やりながら言う。

みんなと一緒に歩くの。みんなと一緒に

道中、いろいろな人が乗り、降りていった。

終点に近づく頃、女給がありがとうさんに言う。
 

自家用車を買ったと思えば、
あの娘さん、ひと山いくらの女にならずに済むんだよ
 
峠を越えていった女は
めったに帰っちゃ来ないんだよ

 
翌日。

町から村へ戻るバスの乗客の中に、
例の母娘のすがたがあった。

娘がありがとうさんにいう。

帰ったらあの女の人に手紙を出しましょうね
 
お礼が言いたいわ
あの人、いい人だったわねえ

 
しかし女がどこへ行ったのかを知る者はいない。
 
(終)
 
参考リンク ;

有りがたうさん – Wikipedia

有りがたうさん : 映画収集狂

「有りがたうさん」:のんびり。:So-netブログ

映画評「有りがたうさん」 プロフェッサー・オカピーの部屋[別館]/ウェブリブログ

『有りがたうさん』ロケ地
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監督…清水宏
監督補助…沼波功雄、佐々木康、長島豊次郎
脚色…清水宏
原作…川端康成
撮影…青木勇

キャスト
有りがたうさん…上原謙
髭の紳士…石山隆嗣
行商人…仲英之助
黒襟の女…桑野通子
売られゆく娘…築地まゆみ
その母親…二葉かほる
東京帰りの村人…河村黎吉
その娘…忍節子

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