復讐はショパンの調べ。「1億円と旅する男」感想「Q.E.D. iff -証明終了-」加藤元浩・著

イラストは少年マガジンR2019年5号(9月号)掲載「1億円と旅する男 Q.E.D. iff -証明終了-」(加藤元浩・著)より、制服姿の水原可奈ちゃんが路地に立って後ろを振り返っているところです。その先に男の影らしきものが見えています。
MIZUHARA Kana in [Q.E.D. iff] (Shonen Magazine R 2019 September Extra Number 5) Created by KATÔ Motohiro

少年マガジンR 2019年5号[8月20日発売]を購入しました。
紙書籍版でのみ読むことができる「Q.E.D.⇔iff -証明終了-」
(電子版には掲載されておりません。ご注意ください)。
今回のタイトルは「1億円と旅する男」です。
(※2019.10.21 追記 「Q.E.D. iff -証明終了-」第14巻に収録されました)

できる限り、ネタバレを避けて
あらすじ紹介させていただきます。。。

1億円の入ったバッグを抱えた老人が
雨の東京を徘徊していました。

老人はほとんどの記憶を失っていました。
なぜ自分が1億もの大金を持っているのかも
分かっていないようです。

警察により身元が判明。
彼の名は浦島太郎といいました。
(あだ名ではなく本名です)

年齢は60くらい。
現代では老人と呼ぶには
まだまだ若い年ですが、
浦島さんは白髪で、見た目も
80歳くらいに見えるのでした。

浦島太郎さんの半生を
かいつまんで話すと以下のようになります。

約30年前、交通事故に遭い、太郎さんは
賠償金として1億円受け取りました。
(バッグの1億はこのお金)

寝たきりとなって眠り続ける太郎さん。
自宅マンションで、奥さんの尚子さんの
看病をずっと受け続けます。

1年前、尚子さんはガンにより死亡。

しかし彼女は生前、
ひとり残されることになる太郎さんのため、
今後の介護、もろもろの支払いや手続きなど
遺漏なく済ませておいてくれました。

おかげで太郎さんは、
尚子さん亡き後も、施設に移され、
充分な介護を受けることができました。

施設に入って2ヵ月後、太郎さんは
約30年ぶりに目を覚まします。

自分が何者か
すでに分からなくなっていた彼は、
施設を抜け出し徘徊。
そこを警察に保護された──という流れです。

ここで「Q.E.D.iff」のレギュラー、
われらが水原可奈ちゃんに
「太郎さんの過去を調べてほしい」
との相談が持ちこまれます。

尚子さんが遺書などを残さなかったため、
手がかりは二つしかありません。

尚子さんが夫の太郎さんに
ショパンの「別れの曲」のオルゴールを
ずっと聴かせつづけていたこと。

そのさい、よく次の言葉をささやいていたこと。

「乙口(おとぐち)を捜して」

可奈ちゃんは、クラスメイトでもある
天才少年、澄馬想(とうま そう)くんの助けを借りて、
「乙口」とは超エリート検事の名前であることを突きとめます。

乙口は29年前、浦島太郎さんを
とある殺人の容疑者として起訴、
懲役15年の刑に服させたことがありました。

(ということは尚子さんの話、『約30年前、交通事故に遭った』『その後ずっと夫は眠り続けた』は真実ではないということになります)

可奈ちゃんは、当時の浦島さんの
弁護士宅まで訪ねていって話を聞いたり、
現場をめぐり写真を撮ったり、
警視庁捜査一課の頼れるお姉さん、七夕菊乃さん(髪切った!?)に
過去の資料を見せてもらったりと大活躍。

そして浮かび上がってきた驚くべき事実──。

30年間、尚子さんがいかに
太郎さんのことを考え続けてきたか。
オルゴールのネジを何百回、何千回巻き続けてきたか。

可奈ちゃんの口から聞かされた太郎さんは、
初めて自分は「素性の知れない誰か」ではなく
「浦島太郎」その人なのだと確信するのでした。

尚子さんの墓前で号泣する太郎さん。
お墓の前には小さなオルゴールが置いてありました。

太郎さんはオルゴールを持ち帰り、
ひとりの部屋でねじを巻きます。

蓋を開けると、中から白い煙が出て
一瞬のうちに何百年も時が経ってしまった……

などということはなく、ただショパンの
「別れの曲」のメロディが流れるだけなのですが、
じつはこの瞬間から太郎さんにとっての
生き地獄が始まるのです。

気が遠くなるほどの手間と
憎しみを注いだ、無慈悲で
残酷きわまりない復讐劇。

もし真相を知ってしまえば、
いくら可奈ちゃんが
強いハートの持ち主でも、
深く傷ついてしまうかも知れない──。

それを案じた澄馬くんは
読者にだけ真相を明かし、
事実を知る関係者に関連資料の廃棄をお願いした後、
しずかに自分の胸の奥に封印するのでした──。

。。。ミステリを本業とする小説家でも、
一生のうちにひとつ思いつけるか
つけないかというほどの奇抜な発想とクオリティを、
本エピソードは持っていると思います。

「Q.E.D. iff -証明終了-」
「C.M.B. 森羅博物館の事件目録」
「捕まえたもん勝ち!」
シリーズあわせて、
月に2~3本の超ハイペースで
高レベルの作品を長年にわたり、
コンスタントに発表し続けておられる
加藤元浩先生、すごすぎです。

最後に、コミックスでは
お目にかかることの出来ない、
雑誌ならではの特典「アオリ」を
引用させていただきます。

扉のアオリ

謎の男、
空ろな影を落とす──

最終ページのアオリ
(ネタバレの可能性があるので、マスキングしました。ドラッグすると文字が浮かび上がります)

愛は歪みを生み、歪みが愛を固めていった。26年の復讐は今、静かに眠りにつく・・・・。

 
辻井伸行 別れの曲 Nobuyuki Tsujii plays the piano on Étude Op. 10, No. 3 (Chopin)


 
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「Q.E.D. 証明終了」シリーズ

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復讐はショパンの調べ。「1億円と旅する男」感想「Q.E.D. iff -証明終了-」加藤元浩・著

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